<別人のように(1)>

本人は気がついていないのだろうが、梅澤さんは別人のようになった。梅澤さんとは10年以上の付き合いになるが、10年同じ釜の飯を食っても、これほどとは思えないほど、親しげで世話好きな人間になってしまったのだ。僕が卓球シューズを忘れて帰ったことがあるので、靴をはきかえていると、わざわざそばまで来て『靴を忘れないようにね。すぐバッグの中に入れて・・・』などと、別人のような世話好きの面を見せるのだ。おそらく、これが梅澤さんの本来の性格なのだろう。今までは、意識的に僕と親しくすることを避けていたに違いない。

10年以上前のことだが、『「試合は試合をする前から始まっている」と社長に言われたことがある』と梅澤さんが話したことがあった。そのときは『社長は宮本武蔵が好きだったな』と思っただけだった。

そして、僕が初めて1セット梅澤さんから取ると、梅澤さんは仕事で忙しそうになり、長話することもなくなっていった。梅澤さんが『渡辺さんの話は難しい』と言ったことも、長話することがなくなった理由の1つだった。しかし、卓球が強くなるサプリや食べ物を発見すると必ず教えるようにしていた。梅澤さんが全日本で優勝できるようなレベルにならなければ、僕が全日本で優勝できるようなレベルに達することはできないからだ。梅澤さんが『まだ、あるんですか』と言うほどしつこく教えた。

2022/9/7